チリの家づくりブログ 〜WELLNESTなマイホーム計画〜

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WELLNEST HOME(ウェルネストホーム)で超高気密・高断熱住宅を建てるまでの記録です

【断熱について】「熱」の深イイ話

こんにちは、チリです。
本日は2020年4月23日木曜日です。



さて、今回から何回かに分けて「断熱材」について書いていこうと思います。


「調べ尽くした」とは言えないかもしれませんが、一般的にネット上でも出回っているような浅はかな内容を書いても面白くもなんともないので、断熱材について、その重要性や必要性、そしてどの断熱材を選ぶべきなのか?まで、私なりにできうる限り科学的な根拠まで総ざらいし、まとめてみました。


少し難しい話もあるかもしれませんが、もし興味あれば読んでみてください!!

「熱」について

断熱材について学ぶ前に、基礎的なところからみていきましょう。
ここではまず「熱」についての深〜い話(!?)をしていきたいと思います。
熱について理解すれば、断熱材についての理解も深まります。
教養としても面白い話ですので、ぜひご一読ください。

熱の歴史 〜”熱物質説”と”熱運動説”〜

まずは熱の歴史から。
なんでもそうですが、歴史的な変遷を見ると、「当たり前だ」と思われてきた常識がいかに疑うべきことか、ということもわかります。良い意味で”疑う力”を養うためにも歴史の勉強は欠かせません。
実は熱の歴史においても、「パラダイムシフト(常識や定説が覆されること)」が起こっています。そういうことを知っておくだけでも、また違った視点で物事を見ることができるようになるかもしれませんね。

・前史:「熱物質説」の誕生

古代(特に古代ギリシア)において、熱は光や火と同一視されていました。
熱や火の正体については、古代から科学者や哲学者によって様々な理論が提唱されてきました。


例えば古代ギリシャの哲学者であったエンペドクレスやアリストテレスは、「火」・「空気」・「水」・「土」を四大元素とし、デモクリトスは熱(=火)の原子を考え出しました。


このように、古代(ギリシア)では、人々は「熱(=火)は物質である」と捉えていました。

・「熱物質説」の台頭

17世紀に入ると、ヨーロッパでは産業が活発となり、工業はめざましい勢いで発展してきました(第一次産業革命)。なかでも製鉄業を始めとする金属工業やガラス工業など火を使う工業では、生産が拡大するにつれて燃料の石炭の需要が激増してきました。その需要に応えるため、炭坑では“火で水をくみ上げる”の蒸気機関が大活躍していました。こうした熱を利用する工業や技術の発展とあいまって、熱に関する科学的研究も本格化してきました。このころは,粒子論的自然観を背景にして,ニュートン力学的な自然観がまさに花開こうとしていたときでした。


しかし、このころはまだ熱物質説が主流であり、新興勢力として登場した化学者のなかからも、熱を物質とみなす主張をする人が多く存在しました。そして、17世紀にドイツの化学者であったゲオルク・エルンスト・シュタールが、フロギストン(燃素)という物質で説明する「フロギストン説」を唱えると、この説は急速に広まり、熱物質説がさらに強固なものとなりました。
また、18世紀にラプラスとともに熱量保存則を唱えたかの有名なラボアジェでさえ、この熱物質説に立脚した熱理論(カロリック説)を唱えていました。20世紀にアインシュタインらによって熱力学第一法則が確立されるまでは、熱量保存則でさえも、このラボアジェが唱えたカロリック説に則った熱力学の基本法則とされていたのです。


すなわち、古代から19世紀に至るまでの間、ギリシアで生まれた4大元素説(すべてのものは火・空気・水・土でできているとする説)をベースとする世界観・生命観が主流であり、熱も物質であるとする「熱物質説」が主流の考えであったため、人々は「熱は物質」だと信じており、熱が伝播するのもその物質が移動するためだと考えられていたのです。

・「熱運動説」の勃興

その考え方(熱物質説)に初めて科学的に真っ向から異を唱えたのが、フランシス・ベーコンという著名な英国の哲学者でした。彼は、1620年の自著で初めて「熱運動説」を唱えたため、この説の先駆け的な人物とされています。
その他の科学者としては、ロバート・ボイルとその弟子ロバート・フックが熱運動説を唱えました。また、かの有名なガリレオ・ガリレイは、「火の粒子」を仮定し、この粒子が運動することによって熱が発生すると考えました。さらに、偉大な哲学者・科学者であったデカルトもまた、物体を構成している微粒子の振動こそ熱にほかならない、と考えていました。「手をこすると暖かくなるのは,手をつくっている微粒子が運動するからだ」というデカルトの主張は,この時代思潮の代表といえるでしょう。しかし、残念ながらそのデカルトの説は思弁的色彩が強く,実験的根拠にも欠けていたため、この熱運動説が人々の間で広く支持されることはありませんでした。


ちなみに、デカルトは彼の超有名な大著である「方法序説」の中で「心身二元論(=我思うゆえに我あり)」を唱えたことでその名を知る人は多いと思いますが、当時から哲学者としても(自然)科学者としても、天才と言っていいほどの優れた才能の持ち主でした。同時に、彼は「機械論的世界観・生命観」を世に送り出した先駆者としても有名です。彼の主張を基に、その生命観は自然科学・生命科学の世界にも多大な影響を与え、今の現代医療でもその機械論をベースにした治療体系が出来上がっています。
しかしながら、複雑系である我々生命体を機械論で語り尽くすことは決してできないため、その治療体系に異を唱える治療家も多くいることを、ここで書き足しておきたいと思います(=”機械論”と”生気論”のせめぎ合い)。


・中世〜現代:「熱物質説」から「熱運動説」へのパラダイムシフト

さて、少し話が傍にそれてしまいましたが、先述の通り、熱運動説が幾人かの科学者・哲学者らによって唱えられつつも、産業革命後もラボアジェが唱えた熱物質説が主流の説として人々の間に広く信じられていました。こうした流れが断ち切られたのは、19世紀になり、力学的仕事(運動エネルギー)と熱エネルギーの等価性が示されるようになってからです。この業績に貢献したのは、マイヤー、ジュール、ヘルムホルツという三人の科学者でした。


1843年、ユリウス・ロベルト・フォン・マイヤーは、運動のエネルギーが熱に、あるいは逆に熱が運動のエネルギーに変わり得ることを明らかにしました。ジェームズ・プレスコット・ジュールは、実験を元に熱の仕事当量を算出しました。また、ヘルマン・フォン・ヘルムホルツも、熱と仕事の等価性について論じました。


こうした業績により、熱力学第一法則(=エネルギー保存則)が確立されると、この法則が熱量保存則では説明できない事象も含む広い範囲で成立することが明らかになり、熱量保存則に立脚していたカロリック説はその意義を失っていきました。


その後、ケルビン(ケルビン卿ウィリアム・トムソン)が原子・分子の運動エネルギーと位置エネルギーの和を内部エネルギーと定義して、エネルギー保存則を「系の状態変化に伴う内部エネルギーの差は、外部から加えられた仕事と熱量の和に等しい」と定式化しました。
これによって「熱は物体から物体へ移動する内部エネルギーの形態の1つ」であることが明らかにされ、ついに「熱とは何か」という長年のなぞにもようやく終止符が打たれたのです。


すなわち、ケルビンの功績により熱が分子の運動であることが分かり、熱運動説の正しさが証明されるとともに、熱物質説は消滅していったのです。



以上、熱の歴史についてみてきましたが、いかがだったでしょうか??


その歴史と断熱材となんの関係があるの?と思われるかもしれませんが、ぶっちゃけなんの関係もありません(笑)
しかし、どんなことでもその歴史を振り返ってみるといろんなことがわかってきます。特に私にとっては科学史は非常に面白く、様々な分野において「パラダイムシフト(それまで常識とされていたものが覆されること)」が起こっており、その歴史的変遷をこのように眺めるだけでも価値があると思います。熱の歴史においても、物質として見なされていた熱が、エネルギーの運動によって起こるものだと認識されるようになったという「パラダイムシフト」が起こっていたことがわかっていただけたと思います。


さて、歴史について総ざらいした後は、熱についての詳細を以下で述べていきましょう


「熱」とは何か?

熱とは、先述した通り物質間のエネルギーの流れのことを意味します。

熱エネルギーは、必ず高温から低温へ移動するという性質があります(熱力学第二法則)。この原則を、熱移動(heat transfer)と呼んでいます。


熱は必ず高温側から低温側へ伝わっていきますが、両者の温度が等しくなると、熱移動(伝熱)しなくなります。これを熱平衡といいます。


熱には単位があり、以下の3つに分類されます


・熱量(記号はQ、単位はJ)
・比熱(記号はc、単位はJ/(g·℃)またはJ/(g·K))
・熱容量(記号はC、単位はJ/℃またはJ/K)

熱量

熱量とは、物体間でのエネルギーの流れ、すなわち熱のエネルギー量を数値化したものです。
記号はQ(heat QuantityのQ)、単位はJ(ジュール)を用います。
ちなみに、1Jは、地球上で約100gの物体を1m持ち上げる仕事に必要なエネルギーと同じになります。

比熱

比熱とは、物質1g の温度を1℃(K)上昇させるのに必要な熱量のことです。
記号はc(小文字のc)、単位はJ/(g·℃)またはJ/(g·K)を用います。
比熱は、物質1gの温度変化のしにくさ(温まりにくさ冷めにくさ)を表しているともいえます。比熱の大きな物質ほど温度差を生じさせるのに大きな熱量が必要になるため、温まりにくく冷めにくいです。逆に、比熱の小さな物質は小さな熱量で温度差を生じることができるため、温まりやすく冷めやすいです。
例えば水は、液体の中で最も比熱が大きいことが知られており、その値は4.186 J/(g·℃)(またはJ/(g·K))となります。つまり、水1gを1℃上昇させるのに4.186J必要ということです。昔は、この熱量を1cal(カロリー)と言っていました。

熱容量

熱容量とは、任意の量の物質の温度を1℃上昇させるのに必要な熱量のことです。記号はC(heat CapacityのC)、単位はJ/℃またはJ/Kを用います。
比熱と熱容量の違いは、対象としている物質の量の違いになります。比熱が物質1gを対象としているのに対して、熱容量では任意の量を対象としています。

熱はどのように移動するか?

熱を運ぶ方法(エネルギーの流れ)には、熱移動の3原則と言われる熱伝導(conduction)、対流(convection)、熱放射(radiation)の3種類があります。


熱伝導(heat conduction)

熱伝導(伝導)とは、熱が物質によって運ばれる現象のことです。原子・分子の格子振動の伝播や自由電子の移動によって、熱が運ばれていきます。

熱の伝わりやすさは物質によって異なり、熱伝導率(Thermal conductivity)という数値によって表されます(詳細は後述)。数値が大きいほど、熱は伝わりやすくなります。記号は λ で、単位はW/m・K(ワット毎メートル毎ケルビン)で表されます。
熱伝導率は、厚さ1mの板の両端に1℃の温度差がある時、その板(1平米)を通して、1秒間に流れる熱量を表しています。
熱伝導率は、気体、液体、固体の順に大きくなります。
特に金属の熱伝導率が大きいのですが、これは分子同士の衝突だけでなく、金属中の自由電子同士の衝突があるからです。

対流(convection)

対流とは、熱が温度差によって生じた流体(液体や気体)の移動によって、運ばれる現象のことです。
液体や気体は、温度が上昇すると膨張し密度が小さくなり軽くなるため上昇していきます。そこへ、周囲の低温の密度が大きく重い部分が流れ込むことで循環が生じます。
お風呂を沸かした時に混ぜないでおくと、始めは上が暖かく下が冷たいままで、次第に均一に暖かくなるという現象も対流によるものです。また、エアコンは、温風または冷風を作り出し、部屋の中で強制的に対流させることで温度調節を行っています。


ちなみに、熱伝導と対流は、どちらも物質が熱の運び屋としてはたらいていますが、熱伝導が物質の移動を伴わないのに対して、対流は物質(流体)の移動を伴うという違いがあります。

熱放射(thermal radiation)

熱放射(放射)とは、熱が放射線(電磁波)によって運ばれる現象のことです。熱ふく射(ふく射)ともいいます。
太陽の光やストーブ、焚き火など遠赤外線によって温かくなるのはこの作用によるものですね。
放射線によって熱が運ばれるため、物質のない真空中であっても熱は伝わります。熱伝導や対流のように物質を介した熱の移動ではないところがポイントです。



今日は長くなったのでこの辺で。


次回から断熱材について書いていきます。