チリの家づくりブログ 〜WELLNESTなマイホーム計画〜

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WELLNEST HOME(ウェルネストホーム)で超高気密・高断熱住宅を建てるまでの記録です

【太陽光発電システム】世界ではなぜ再エネが進んでいるのか!?

こんにちは、チリです。

本日は8月15日土曜日。私の休みも昨日で終わり、今日から仕事が始まりました。


さて、前回記事から太陽光発電について書く、ということを申し上げていましたが、前回は「生き方を再考せよ」というタイトルで、「現代社会の資本主義システムからの脱却のススメ」について書きました。そして、その手段の一つに「太陽光発電(+蓄電池)」がある、ということも書きました。


今回からは、日本人だけが知らない(!?)世界の太陽光発電を含めた再エネ事情について書いていきたいと思います。かなり難解な記事になるので、興味のある方のみ読んでいただければ、と思います。


世界で進む再生可能エネルギーの普及

隠れたコスト=外部コストについて

・火力発電が気候変動を引き起こす!?

例えば、日本では石炭火力は比較的安価な電力源として、また中東など政情が不安定で地政学的なリスクがある地域から輸入している石油とは異なり、安全保障上の観点からも日本では今後も重要な電源として位置づけられています(第5次エネルギー基本計画)⬇️

https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/pdf/180703.pdf

実際に、日本国内の全電源のうち、石炭火力は全体の30%近くを占めています(2018年度、環境エネルギー政策研究所)⬇️


しかしながら、石炭火力は地球温暖化の原因とされている温室効果ガスの排出量が大きいことが上記計画書の中でも指摘されています。実は地球温暖化を引き起こす(のと考えられている)CO2の排出量は、統計によればエネルギー関連部門(ほとんどが発電関連)が全体の40%以上を占めています(2018年度、全国地球温暖化防止活動推進センターより)⬇️

CO2が本当に地球温暖化を引き起こす温室効果ガスであるのかどうか(私はかなり疑っています)はさておき、CO2などの温室効果ガスの排出量が増加しているとともに、近年では世界規模での気候変動が毎年のように怒っています。実際我が国でも、夏季の集中豪雨や熱中症被害が年々増加しており、猛暑による死亡は、このまま何も手を打たなかった場合、1990年代には人口10万人あたり年間0.3人であったものが、2030年代には2.2倍、2090年代には3.7倍にも達することが予想されています(環境省、温暖化影響総合予測プロジェクトチーム)⬇️

https://www.env.go.jp/press/files/jp/13617.pdf

これは温室効果ガスの影響よりもむしろ、人為的な操作が関わっている可能性を指摘する声もありますが、実際のところは私などにはわかりません。

・火力発電の知られざる健康被害、「外部コスト」について

しかしながら、石炭や石油を使用した火力発電には、このような温室効果ガスによる(と考えられている)気候変動の問題だけではなく、実はもっと身近な直接的な健康影響があることも指摘されています。


例えば、環境省が2年に一度行っている大気汚染物質排出量総合調査によれば、全国の工場・事業所から排出される大気汚染物質のうち、窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)など、すでに環境影響や人体への健康被害が明らかになっている大気汚染物質を排出する最大の業種は、電力産業(すなわち火力発電所、とりわけ石炭火力)であることがわかっています(環境省、大気汚染物質排出量総合調査)⬇️

https://www.env.go.jp/press/files/jp/105146.pdf

また、別の調査では、都市部の石炭火力発電所が、建設計画中のものも含めて全て稼働したと仮定すると、NOxやPM2.5などの粒子状化学物質により、年間三百八十人の早期死亡者が出現すると推定されています(新規石炭火力発電所による 大気環境および健康への影響)⬇️

https://www.kikonet.org/wp/wp-content/uploads/2016/05/Japan-case-study_JP_final4.pdf

日本において特に火力発電所は湾岸エリアなど人口密集地に隣接して建設されているために、そこから排出される大気汚染物質が都市部に住む人々の健康に深刻な被害を与える可能性があり、問題は大きいと考えられます。


さらに、WHOの調査によれば、大気汚染による世界の死亡者数は年間約700万人にも及ぶという結果が出ています⬇️

また、国連人権理事会(UNHRC)の報告書によれば、先進国であるイギリスでも、大気汚染のため毎年4万人もの早期死亡者が発生しているとされています⬇️


しかし、これらの調査はあくまでも早期死亡者数(ある特定の原因により、平均寿命よりも早く死亡した人の数)のみを調査しており、直接的には死に至らなくても徐々に健康が蝕まれ、寿命が少なくなるケースは定量化されてはいません。

さらに言えば、これらの調査でも、単なる寿命の長さのみならず、生きている間に健康に暮らせたかどうかを加味した「障害調整生命年」すなわち健康寿命がどうだったか、ということは全く考慮されていません。


火力発電による気候変動や直接的な人的健康被害。このような石炭火力を含めた火力発電による悪影響・リスクは、いわゆる「隠れたコスト(hidden cost)」であり、経済学的には「外部コスト(eternal cost)」と呼ばれているものです。


この「隠れたコスト」は正確に予測することは極めて困難であり、不確実性を伴います。何故ならば、一般に人体にまで悪影響が出たことがわかるのはだいぶ後になってからであり、仮にきちんと対策を立てていればどうなったか?ということに関しては予測や推測の域を出ないからです。このような実際のところはよくわからない仮定や推測の話は、「ないもの」として扱われるのが、経済性(効率性)や利便性を求める現代社会の世の常であり、このような風潮が支配的であればあるほど外部コストは考慮されなくなり、文字通り隠れたコストになってしまいます。

・外部コストに関する議論

外部コストの分析は、欧米ではかなり進んでいます。


ヨーロッパでは、すでに1990年代からこの外部コストを調査するためのプロジェクトが立ち上がっており、それによると、石炭の外部コストは約3.32〜4.92円/kWhと算出されており、とりわけ大気汚染による呼吸器系疾患による寿命低下などの健康被害リスク、および気候変動による災害リスクの増加といった外部コストが突出していることがわかっています(ExternEによる報告書)⬇️

http://www.externe.info/externe_2006/externpr.pdf

一方、原子力の外部コストは約0.32円/kWhと算出されており、ここには原発事故の際の放射能汚染による健康被害リスクも含まれています。しかし、これに関しては私は安すぎる見積もりと考えています。何故なら、この報告書は2011年3月11日に、日本の東北大地震後に起こった福島原発事故以前のものだからです。しかも、今世紀最悪と言っても過言ではない原発事故による放射能汚染の健康被害については、事故後完全に隠蔽されています。例えば、3.11の福一原発事故による内部被曝による影響は、いわゆる「津田論文」(岡大の公衆衛生教授津田先生が"Epidemiology"という超一流疫学雑誌に載せた論文)で小児甲状腺がんが増加していることが示されていたり、他にもいくつかの論文で健康被害が明らかにされているのにも関わらず、日本政府はこれらを全くなかったものとして扱っています。日本全土に及ぶ放射能汚染についても、政府は”Under control”という寝言を述べて国民だけでなく、全世界中に恥ずかしげもなく大嘘をついています。原子力の外部コストは、内部被曝による健康被害や、原発廃炉費用なども含めて考えれば、実際には5円/kWhを超えてくるのではないかと私は考えています。


なお、再生可能エネルギーの外部コストは、太陽光が1.08円/kWh、風力が0.21円/kWh、水力が0.15円/kWhと算出されています。太陽光の外部コストには製造時に排出される温室効果ガスの影響も考慮されており、風力には騒音などによる被害コストも含まれています。すなわち、再エネも外部コストはゼロではなく、その点では完璧な電源とは言えませんが、それでも従来の化石燃料による発電に比べればはるかに外部コストが低いことがわかります。


またヨーロッパだけではなく、米国でも「エネルギーの隠れたコスト( Hidden Costs of Energy)」という、いかにもな名のついた研究報告書(レビュー論文)が全米アカデミーから発行されており、外部コストの研究が全米レベルで推し進められています。この500ページにも及ぶ報告書によれば、やはりEternalEの報告書と同様に、化石燃料の外部コストの方が再エネの外部コストよりも高いという評価がなされています(下記リンクはBook Review)⬇️

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3060022/pdf/ehp-119-a138a.pdf


ちなみに、これらの欧米での大きなプロジェクトの報告書は、残念ながら日本語には翻訳されておらず、日本では一部の専門研究者の間にしか知られていません。さらに、日本では一般人にとっては「外部コスト」という概念自体が理解されていないことはもちろんのこと、政策決定者やマスコミの間でもほとんど議論すらされていない、というのが現状なのです。この点だけでもいかに日本が学問後進国であるか、がわかっていただけるでしょう。


いずれにせよ火力発電、とりわけ石炭火力が他の電源に比べて突出して高い外部コストを発生させていることが世界中の多くの研究データによって示されています。そして、このことこそが日本を除く海外先進諸国においては、再エネを導入するための理論的根拠となっているのです。

再エネのbenefit(便益)について

先述した「外部コスト」という話に加えて、もう一つ再エネを語る上で同様に重要な概念についてここで説明したいと思います。それは、「benefit=便益」についてです。


では、再生可能エネルギーにおける便益とはなんでしょうか??


それは、人々の生活を支える電力を生み出すという便益だけではなく、化石燃料を使用することで発生する温室効果ガスや大気汚染物質の削減が図れるため、健康被害の抑制や気候変動の緩和が期待できるという大きな便益があります。これは、先述した「外部コスト」の高い他の電源を再エネ電源に置き換えることでその威力を発揮します。


すなわち、「外部コスト」と「benefit=便益」はお互いに裏表の関係になっている、とも言えます。


ちなみに、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)が発表した報告書の中で、世界全体で気候変動緩和のために必要な再エネ導入について分析されており、その試算によれば投資額は世界全体で毎年2900億ドル(約32兆円)となっています。一方で、この投資を行うことで得られる便益は、毎年1.2兆ドル〜4.2兆ドル(約132兆円〜462兆円)と見積もられています⬇️

https://www.env.go.jp/earth/report/sankou2%20saiene_2019.pdf

すなわち、約32兆円という我々一般人からすれば途方もなく巨額な投資を行わなければ、4倍〜15倍もの損失を被ることになる、ということが国際機関から提示されているのです。この損害は、特定の企業や投資家のみが不利益を被る損害ではなく、当然国民全体・地球市民全体に降りかかってきます。したがって、このような損害を防ぐこと自体が地球市民全体へもたらされる社会的便益となる、と考えられています。

世界で再エネが推進されている理由

「外部コスト」について述べた箇所でも書きましたが、世界では再エネの「外部コスト」が他の電源に比べて低く、逆に「便益」が大きいということがはっきりと認識・理解されているからこそ、再エネが政策的にも社会的にも推進されているのです。


逆に学問後進国である日本では、このような「外部コスト」「便益」がきちんと認識されておらず、むしろ再エネの固定価格買取制度(FIT)の賦課金の上昇により、国民負担の上昇が仕切りに宣伝されており、いかに国民負担を抑制していくか、というところに議論が集中しています。


すなわち、日本では先進諸国において唯一、火力発電などによる「外部コスト」や、再エネの「便益」という概念が抜け落ちて、コストばかりが議論され、風力や太陽光発電を含めた再エネを導入するインセンティブに乏しい国・社会となっている、ということです。これは、投資を控えてデフレを積極的に推奨するようなものだと思います。


ちなみに、ここで私が述べてきた再エネの「外部コスト」「便益」に関しては、京都大学の安田先生がわかりやすくまとめておられるので、興味ある方はこちらをお読みください⬇️
http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/yasuda/main/yasuda2018kagaku.pdf
ただし、この安田陽という先生は、市場に対する政府の介入を容認するかのような見解を持っておられるようで、自由市場主義者のリバタリアンである私からすればそこは完全に反対の立場です。しかし、この「外部コスト」や「便益」というものが海外ではしっかり議論されているがゆえに、再エネ導入が進んでいる。逆にそれらの概念すら社会通念として存在していない日本では再エネ導入がなかなか進まない、という見解には一定の説得力があると考えています。


さて、次回は「世界の再エネ事情」について、さらに深掘りして見ていきたいと思います。